真面目であることの美

私はチャラい人間がわりと苦手である。
チャラい人間と一括りにしてしまうのはいかがなものかとも思うのだが、まあやっぱり私もある種見た目で人間を50%判断してしまう人間の一派ではあるので、怖いというか、多分私には縁遠い人だなあ、と思ってしまう。そういう人たちと関わることはなかったし、私の学校にはいなかった。だからテレビとかで見ると、ウッとなる。分からん、というのが一番の感想なのかもしれない。

そんな私が、EXITに出会った。勿論テレビでだが。

当初は、苦手なタイプの人たちだなと思った。見た目からしてチャラい。言葉もチャラい。そりゃそうだそのキャラで売ってんだから。髪染めてるのが、インパクト大。茶色くらいなら全然大丈夫なのだが、ピンクかあ。フィクション感が否めなくて、二次元なら大丈夫なんだけれど、リアルで髪がピンクの人を当時見たことが本当になかったので、ちょっと驚いてしまっていた。

でも、話すのをきいて、また驚いた。ああ、外見によるバイアス。
めちゃくちゃ真面目な人たちだったのだ。

もう一度彼らをみるきっかけになったのは、友人が漫才を見始めたことだった(彼女が見ているのは宮下草薙だった)。そんなに面白いか?とか思いながらいくつかテレビを見て、そうして彼らの真面目さに気づいたのである。
いろんなことを考えている。何なら、今まで自分が真面目であると思っていた私より真面目に考えている。りんたろー。さんのnoteを覗いてみたりしたが、情報を手に入れて考えていること、でもわからないことがたくさんあること、学び続けたいこと、全部真面目に記述されていた。私なんかより真面目だ。ワイドナショーの兼近さんは、勿論キャラ付けとしてのチャラい語彙は使うんだけれど、各方面に考えを及ばせながら、思慮を働かせながら、発言していることがよく分かった。
そして兼近さんが読書家で、又吉さんが勧める本を読んでいる、なんてことも知った。太宰ファンの私大歓喜である。太宰は読んでいるのかな。まあ読んでいるだろうな。どれが好きなんだろう。本の虫というか、活字中毒というか、私にはそういう傾向があるので、本が好きというだけでなんだか好感度爆上がりなのだ。

そんなこともあって私はEXITに最高にハマっている。漫才もきちんと笑えるように作ってある(勢いで笑わせるタイプではない)し、ニュースについてコメントを求められてもちゃんと答えているのが、真面目であることの美しさを示しているように思う。
彼らが過去に苦労してきたことを、私は他人としてWikipedia等のコンテンツからしか知らないけれど、そのような背景を抜きにしても、彼らの真面目さは美しいものだと思う。彼らが苦労して紆余曲折の後にそれを身につけたから、ではない。真面目であるという美徳は、見た目を、言葉を、形式を変えたところで、必ず表出するものだからである。
頑張ることに意味がある、というような精神論的言説はどちらかと言えば嫌いな方なのだが、真面目であるということが美徳であるのは確かで、それは何故かといえば真面目さは、何物も損なおうとしないし、何者も排除しないからである。物理的に頑張れない人間はいても、不真面目にしか生きられない人間には私は会ったことがない。人間多分皆、何物かに対しては真面目であることができる。それをより多くの、自分が興味を抱きづらいような対象に向けることができる人に対して、私は尊敬の念を覚える。

あくまで私の考えだが、彼らは、チャラいというタグ付けで登場しているけれども、事実常識そのものであり、まっとうそのものである。どうも趣味が時折登場してしまって申し訳ないのだが、坂口安吾の『不良少年とキリスト』にこういう文がある。

くりかえして言う。通俗、常識そのものでなければ、すぐれた文学は書ける筈がないのだ。

彼らの漫才は、思考は、おそらく文学そのものである。人間皆そうなのではないかと思う。しかも、彼らの文学は、通俗、常識であることからすぐれた文学である。まっとうであり、常識であり、通俗(これは、世の中の思考からそこまで外れていないということを示すと思われる)であるから、だからこそ彼らの漫才、思考とそこから生み出される言葉、人生を語る姿は、すぐれた文学となる。
実は真面目、と語ることを、彼らについては私は好まない。彼らは「実は」真面目なのではなく、ただ真面目であり、まっとうであり、だからこそその上にキャラクターを乗せられるのである。乗せたキャラクターがさも本来の姿であるかの如く「実は」という言葉を使うことは私は好まない。
彼らが紡ぐ思考はある種の文学、しかもすぐれた文学である。私は彼らの文学を、もっと読み進めたいと思う。文章が偉そうになってしまったが、彼らの文学、形式としては漫才だったり話し言葉だったり書き言葉だったりするけれども、それは真面目であることの美を具現化した、言葉のとてもうつくしい形であると思う。